深海のこえ

社会の底辺で哀をさけぶ

彼女はもう文章が書けない

 

crankyy.hatenadiary.jp

 

5、6年前に、 こんな記事を書いた。

この続きを書くことになるなんて思ってもみなかった。

 

 ・・・

 

わたしは18歳。パソコンは、インターネットに繋ぎたて。
チャットレディのかわいい女の子たちを、お金も払わずにただ、眺めていた。(今思えば悪趣味だ…)

 

目をひく子がいた。黒髪のショートカットで、目はぐりんと大きい。キャプチャ画像が何枚か貼ってあって、
顔が隠れるほどの大きな葉っぱを目のところだけ二つくりぬいて、お面みたいにしているのが印象的だった。
可愛いけれど、なんだか風変わり。それが彼女の第一印象。

 

その人はブログを書いていた。
私は一瞬で、彼女の世界に引き込まれた。

 

ブログが消滅してからも、心にずっとこびりついていた。どんな内容だったか、たった一文さえも覚えていないのに、ときどき思い出しては気になってしまう。決まった時間になると飛び出してきて存在をアピールする、鳩時計のハトみたいだった。

 

その日も、何年かぶりに彼女のことを思い出した。ハトに突っつかれるままに、私は検索の窓を叩いた。
彼女のブログ名、何度検索しても見つからないのに、今さら見つかるはずもない。こんな行為をいつまで続けるんだろう。まるでストーカーじゃないか。自分で自分に、呆れてしまう。

 


その日はでも、いつもと違った。

彼女のブログ記事のひとつがブックマークされていることを示すページが見つかったのだ。

(そんな前からはてなブックマークがあったことにも驚いた。調べたら、2005年からあるみたい)
はてなと全く関係のないサイトに書かれた、10年以上前の彼女のブログの一記事は、何者かによってブックマークされていた。

 

すぐに私は、

 

彼女のブログ名、1user

 

となっているページに飛んだ。

今まで何度探してもこんなリンクは出てこなかったのに。不思議だ。
はてなの神様が巡り合わせてくれたんだ、いや、私のしつこさにGoogleが音を上げたのかもしれない。
とにかく、はじめてインターネットに浮かび上がってきた彼女の痕跡に、私の胸は高鳴った。

 

 

404 not found

 


その記事がこの世に存在しないことを示す文字列が現れた。


うん。ですよね。

分かってた。ブログ自体が消えているんだから記事が見られるはずもない。ブックマークした人物が、誰なのかも分からない。

 

でも、私は気づいてしまった。一度誰かにブックマークされると、記事を消そうがブログを消そうが、

冒頭の14、5行は残ってしまうということに…!

 

インターネットって恐ろしい。

彼女としては不本意だろう。もう見られたくないと思ったから消したのだろうし、だけど私は嬉しくて、彼女によって紡がれたそのたった15行の文字列を何度も目でなぞった。やっと会えたと思った。

そして検索魔の私は、その文章を元に移転先のブログまで発見してしまった。嬉しくて震えた。

 

心を真ん中で切り裂いて、裏返したものをそのまま並べているような生々しい日記は、2004年から2011年まで書かれていて、そこから途絶えていた。

 

彼女が生きているのか気になった。
私って欲深い。もう一度見られるだけでいい、と思っていたのに、今度は彼女にこの思いを伝えたいという願望が沸き上がってきた。一方的で身勝手だけど、もう使われているかも分からないようなメールアドレスに文字を送った。

 


あなたの文章がずっと好きでした。
もうブログは更新しないんですか。

 

そんなようなことを書いた。
卒業式の日、憧れのあの人にダメ元で想いを伝える学生みたいだな、と思う。
もし届かなくてもいいやと思った。私は満足した。

 

 

意外なことに数日後、彼女から返信がきて飛び上がった。

 

 

“懐かしいですね”

そのひとことで、彼女の書いていたものはもう色褪せた過去であるということが分かった。

 

もし自分が記憶喪失になり、記憶を取り戻すためにそのブログを読んだとしたら、息が詰まって苦しくなるような内容だと思って書くのをやめたこと。
当時は、何か残さなければ記憶から消え、無くなってしまうのではないかという思いから綴っていたこと。
私からのメッセージで、自分が絵や文章を書いていたことを久しぶりに思い出したということ。
そして今は、あの時の若い心が感じ取っていた苦しみや喜びを感じることが少なくなった、ということが書かれてあった。

 

それを読みながら、なぜか目の奥からじんわりと涙が浮かんできた。

 

“絵も文も書いていないですし、きっと書けないでしょう。それは、悲しいことのような気もしますが、幸せなことでもあります”

 


ああ、彼女は今、穏やかな幸せの中を生きているんだ。なんだか寂しくて、でも嬉しくて、変な気分だった。
目に溜まっていた涙を人差し指でぬぐった。

 

私は、もう二度と更新されない彼女のブログをしばらく眺めていた。そこは、一瞬だけ輝く宝石を閉じ込めたみたいな場所だった。